更新日: 2025.11.17

業績目標を達成するためには、全体像を俯瞰しながら業務を分解し、具体的な行動レベルに落とし込む仕組みが必要です。その際に有効なのが「KPIツリー」です。KPIツリーを活用することで、目標と手段の関係が明確になり、部門やチーム、個人単位での行動指針が整います。
しかし、「KPIツリーの作り方がわからない」「KGIやKPIとの違いが曖昧」「具体例がないとイメージしづらい」といった声も少なくありません。適切な設計ができていないと、現場で活用されず、形骸化するリスクもあります。
本記事では、KPIツリーの基礎から実践的な作成方法、KGIやKPIとの違い、活用のポイントまでを具体例を交えて丁寧に解説します。営業やマーケティング、人事など、さまざまな業種・職種に応用できる汎用的な設計法も紹介しています。
KPI設計に悩む方や、目標管理の質を高めたい方にとって、実務にすぐ活かせる知見が得られる内容です。貴社の目標達成力を高めるヒントとして、ぜひ最後までご覧ください。
目次

業績や成果の達成に向けて、組織やチームの行動を定量的に管理する上で重要となるのが「KPIツリー」です。KPIツリーとは、最終的な目標(KGI)を頂点に置き、それを達成するために必要な中間目標(KPI)を段階的に分解・整理した構造図のことを指します。まるで木の枝のように、複数の要素が階層的につながることから「ツリー」と呼ばれています。
この構造を用いることで、個々の業務やアクションが全体目標にどう貢献しているのかを可視化できます。組織内のすべてのメンバーが「自分の行動が何につながっているのか」を理解しやすくなるため、目標に対する当事者意識と具体的な行動指針が生まれやすくなります。
以下では、KPIツリーの構造をより明確にするために、KPIやKGIの定義およびロジックツリーとの違いを整理していきます。
KGI(Key Goal Indicator)は最終的に達成すべき成果目標であり、KPI(Key Performance Indicator)はその目標に向かって進捗を測定する中間指標です。KGIが「売上10億円達成」だとすれば、KPIは「月間新規顧客数1,000件」「CVR(コンバージョン率)5%」など、数値で測定できる具体的なアクション指標になります。
KPIツリーでは、KGIから逆算して必要なKPIを分解・設定していくのが基本の考え方です。
ロジックツリーは課題や原因をMECE(漏れなくダブりなく)の原則で分解し、思考を整理するためのフレームワークです。一方、KPIツリーは目標管理を目的とした指標の構造化です。見た目の構造は似ていますが、目的と使い方が大きく異なります。
ロジックツリーは「問題の整理」に、KPIツリーは「目標達成の可視化と管理」に用いる点が最大の違いです。
KPIツリーは、以下のような3層構造で設計されるのが一般的です。
このように階層化された設計により、上位目標と日々の業務が一本の線でつながり、戦略と現場の乖離を防ぐことができます。
KPIツリーが多くの企業で注目されている理由は、目標達成に必要なプロセスを構造的に捉えられるためです。特に複数部門が関わるプロジェクトや、組織全体での業績向上を目指す場面では、「誰が何をすべきか」「今どこに課題があるのか」を明確にする必要があります。KPIツリーはこうした課題を可視化し、全体の一体感を生み出す役割を果たします。
KPIツリーの目的は、KGIを分解してKPIに落とし込み、目標達成への道筋を論理的に整理することです。主なメリットは以下の3点です。
KPIツリーを活用することで、目標と実行のズレを早期に発見し、対策を講じやすくなります。
KPIツリーによって指標が階層化されると、目標管理が属人的ではなくなり、組織的なマネジメントが可能になります。たとえば進捗会議では、上位KPIの達成状況と、下位KPIとの因果関係をもとに具体的な改善策を議論できます。言い換えれば、「感覚」や「経験」に頼らない、科学的なPDCAが回せるようになります。
さらにKPIツリーは、業務プロセスの見直しや人材育成にも有効です。各KPIがどの業務に紐づいているかが明確になるため、ムダや重複を発見しやすくなります。また、定量的なKPIは評価基準としても機能するため、公平な人事評価や目標管理制度(MBO)の基盤として活用できます。
KPIツリーを正しく構築・運用するためには、KGIとKPIそれぞれの定義と役割を正確に理解することが不可欠です。多くの現場で「KPIばかり意識され、KGIとの整合性が取れていない」「KPIがKGI達成に直結していない」という課題が見られます。それを防ぐためにも、両者の違いを明確にしておく必要があります。
KGI(Key Goal Indicator)は、企業や事業部門などが達成すべき最終的な成果指標を意味します。売上高、営業利益率、顧客継続率など、経営的なゴールとして設定されることが一般的です。KGIは「ゴール」であり、すべての活動がこの達成に向けて設計されます。
例:年間売上10億円、営業利益率15%、会員継続率90%など。
KPI(Key Performance Indicator)は、KGIを達成するために必要なプロセスの進捗を測る中間指標です。定期的にモニタリングされ、改善すべき業務や施策の判断材料となります。
例:月間新規顧客獲得数、広告クリック率、商談化率、CVR(コンバージョン率)など。
KGIとKPIの主な違いは、役割と視点にあります。
KPIは単独で存在しても意味がなく、必ずKGIに紐づいて設計される必要があります。逆に、KGIだけを設定しても現場レベルでは何をすべきかが見えず、機能しません。両者は常にセットで設計・運用されるべきです。
「KPI=目標」と誤解されることが多くありますが、KPIはあくまで目標に至るための管理指標です。目標(KGI)を設定したうえで、「その達成に必要なKPIは何か?」という順序で設計を行うのが正しいアプローチです。この点を混同すると、数値の管理だけが目的化し、本来の戦略とズレた運用になりがちです。
KPIツリーを正しく機能させるためには、論理性と構造性に基づいた設計が必要です。単に指標を並べるのではなく、KGIから逆算し、各KPIが意味のある因果関係でつながるように構築することがポイントです。以下に、KPIツリー作成の基本ステップを紹介します。
まず最初に設定すべきは、KGI(最終目標)です。経営目標、事業目標、チーム目標など、上位に位置づけられる成果指標を明確に定義します。数値で測定可能で、達成基準が曖昧にならないものを選ぶことが重要です。
例:年間売上10億円、定期購入者数5万人、離職率10%以下 など
KGIに対して、どのような要素が影響を与えるかを分解し、KPIとして定義します。このとき、上位から下位に向かってツリー構造になるように、階層的にKPIを設定していきます。
KPI設定時の視点
KPIを階層的に整理したら、ロジックツリーのように図として可視化します。ツリー形式にすることで、上位指標と下位指標のつながりが一目でわかり、部門横断的な連携や目標整合性がとりやすくなります。
KPIは数値同士で分解・再構成できるように設計する必要があります。たとえば「売上=アクセス数 × CVR × 単価 × 購入回数」といった形で、四則演算で計算できる関係性が理想です。構成要素が感覚的なものにならないよう注意しましょう。
複数のKPIが混在する際には、単位が統一されていないと誤解や判断ミスを招きます。たとえば「件数」と「率(%)」を混在させる場合、それぞれの意味や測定基準を明確にし、混同を防ぐ工夫が必要です。
KPIを設定する際、最上位のKGIや主要KPIは「遅行指標」(結果を後から知る指標)になりやすい傾向があります。それを現場でのアクションに落とし込むには、「先行指標」(結果を生む要因となるプロセス)にまで分解することが求められます。
例:売上(遅行指標) → 商談数(先行指標) → アポ獲得件数 → 架電数
「質の高いコンテンツを作る」や「チームの士気を高める」といった曖昧な指標は、KPIとして適していません。KPIに設定する条件は、数値で測定可能であり、管理・改善ができることです。KPIツリーでは、数値化できない要素は原則として除外します。
最後に確認すべきは、各KPIがMECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)の原則に則って分解されているかどうかです。重複したり、漏れがあると、ツリー全体の整合性が崩れ、現場での混乱を招きます。
KPIツリーの理解を深めるには、実際のビジネスシーンでどのように設計・活用されているかを具体的に見ることが重要です。ここでは代表的な3つのケースをもとに、KPIツリーの構成例を紹介します。
KGI(最終目標):月間売上2,000万円の達成
このKGIを実現するため、以下のように分解します。
KPI1:成約件数(目標:20件)
└商談数 × 成約率
└架電数 × アポ率 × 商談化率
KPI2:平均単価(目標:100万円)
このように、「売上=成約件数 × 平均単価」と定義し、成約件数のさらに下位指標として、アポ獲得や架電数など、行動レベルのKPIへとつなげます。こうすることで、営業担当者ごとの日々の行動が売上目標にどう貢献しているかを可視化できます。
KGI:月間売上5,000万円の達成
さらにCVRをブレイクダウンすると、
カート投入率、商品詳細ページ閲覧率、離脱率などが先行指標として設定可能です。
マーケティングチームは訪問者数や広告のクリック率、UI/UXチームは購入導線の改善、商品企画は平均単価アップに貢献する施策を設計するなど、各部門の役割とKPIが明確になります。
KGI:従業員エンゲージメントスコア向上(目標:70点以上)
これらのKPIをベースに人事評価制度へ連動させることで、数値に基づいた公平な評価と、組織課題の早期発見が可能になります。特に定量化しづらい組織開発領域では、KPIツリーを導入することで可視化が進み、改善サイクルが回しやすくなります。
KPIツリーは構造を作って終わりではなく、運用して初めて効果を発揮します。よくある失敗は、「ツリーは作成したが使われていない」「KPIの妥当性が検証されないまま放置されている」といったケースです。KPIツリーを実践で活かすためには、いくつかのコツと注意点があります。
KPIが形骸化する最大の要因は、モニタリングや見直しが行われていないことです。作成後は定期的なレビューを行い、「KPIがKGI達成に機能しているか」「現場の実行に結びついているか」を確認しましょう。
加えて、KPIは常に現場の変化に応じて最適化する必要があります。マーケット環境や組織体制の変化があれば、KPIの再定義や構成の見直しを柔軟に行うべきです。
KPIツリーは一度作れば永久に使えるものではありません。定期的なPDCAに組み込み、以下の観点で見直しを行うことが重要です。
特に、KGI未達の際はツリー構造全体を振り返り、どのKPIに問題があったのかを分析する材料として活用できます。
KPIツリーの運用には、可視化・共有・更新のしやすさが求められます。Excelやスプレッドシートを使って設計するケースも多いですが、以下のようなクラウドツールを活用することで、より柔軟かつ継続的な運用が可能になります。
こうしたツールの導入により、組織全体でKPIの可視化と共有が進み、現場のアクションに落とし込みやすくなります。
KPIツリーを設計する際に併用すると効果的なフレームワークの一つが「SMARTの法則」です。SMARTとは、目標設定に必要な5つの要素の頭文字を取ったもので、KPIを現実的かつ実行可能なものにするための基準です。
SMARTは以下の5つの基準で構成されます。
このフレームワークに基づいてKPIを設計すれば、曖昧な指標や現実離れした目標を避け、実効性の高いKPIが設定できます。
KPIツリーを構成する各指標にSMARTの基準を適用することで、より精度の高いマネジメントが可能になります。たとえば「資料請求数を増やす」というKPIを、「月間3,000件の資料請求数を、広告施策により達成する(6月末までに)」といった具体的かつ期限付きの形にすることで、評価・改善がしやすくなります。
KPIツリーの作成は、ゼロから設計するよりも、実用的なテンプレートや支援ツールを活用することで、工数を削減しながら精度を高めることが可能です。特に初めてKPI設計を行う担当者にとっては、具体的な雛形があることで全体像を把握しやすくなります。
KPIツリーはExcelやスプレッドシートを用いて階層構造で整理するのが一般的です。以下のようなフォーマットがあると効率的です。
自社の業務内容に合わせてカスタマイズすることで、部門ごとに柔軟な運用が可能になります。
KPIを全社的に運用・共有する場合は、クラウド型ツールの導入が効果的です。たとえば以下のようなツールが活用されています。
これらのツールは、属人化を防ぎ、全体最適な目標管理の実現に貢献します。
KPIツリーは、目標達成に必要なプロセスを可視化・構造化し、行動レベルまで落とし込む強力なフレームワークです。KGIとKPIの違いを正しく理解したうえで、論理的かつ実行可能な形で設計することで、部門間の連携強化や業務改善にも大きく寄与します。
本記事では、KPIツリーの定義から作成手順、具体例、運用上の注意点までを包括的に解説しました。設計にあたっては、SMARTの法則や可視化ツールの活用も効果的です。目標管理の精度を高めたいすべてのビジネスパーソンにとって、KPIツリーは不可欠な設計思考となるでしょう。
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監修者プロフィール
A.KPIツリーの作成は、事業戦略や中期計画の策定時、または新プロジェクトの立ち上げ時が最も効果的です。方向性やゴールが定まった段階で設計することで、KPIとの整合性が高まり、運用時の修正リスクも減少します。
A.KGIが不明瞭な状態でKPIを設計しても、目標に向かう方向性が曖昧になり、ツリーの精度が低下します。そのため、まずはKGIの明文化を優先し、定量的かつ達成基準が明確な指標を設定することが最優先です。経営層との擦り合わせが必要な場面も多いため、早期に合意形成を行いましょう。
A.部署・チームごとに業務内容や成果指標が異なるため、一律のKPIでは機能しません。全社共通のKGIを起点にしつつ、それぞれの部門が直接的に貢献できるKPIをカスタマイズして設計することが重要です。各KPIの因果関係がKGIとつながる構造を意識してください。
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