公開日: 2025.06.12
「良質なコンテンツを定期的に公開し、適切なキーワード戦略も実施している。しかし、Googleのコアアップデートのたびに検索順位が大きく変動してしまう」
企業のWebマーケティング担当者様であれば、このような課題に直面することも少なくないでしょう。多大な工数をかけて積み上げてきた施策が、アルゴリズムの変更一つで不安定になる。この状況の根本的な原因は、もはや従来の「キーワード対策」だけでは解決できない領域にあります。
その解決の糸口となるのが、本記事のテーマである「エンティティ」です。
この概念を正しく理解し、自社の戦略に組み込むことで、Googleのアップデートに左右されにくい、中長期的に安定した検索評価を築くことが可能になります。本記事では、エンティティの基礎から具体的な構築方法まで、企業のWeb担当者様がすぐに実践できる形で解説します。
目次
エンティティ(Entity)とは、Googleが情報を整理・理解する上での「一つの明確な存在・概念」を指します。より正確には、「単一の、ユニークな、明確に定義され、識別可能なモノやアイデア」と定義されています。
…と言葉で聞くと難解に聞こえますが、これはGoogleが認識するための「公式なプロフィール情報」と捉えると分かりやすいでしょう。
【不十分なプロフィール(エンティティが不明確な状態)】
これでは、人間が名刺交換をしても、相手が何の専門家なのか判然としないのと同じです。Googleも、このサイトが何について権威を持つのかを判断できません。
【効果的なプロフィール(エンティティが明確な状態)】
このようにプロフィールが明確であれば、Googleは「この株式会社〇〇は、中小企業のDX化に関する専門性と権威性を持つ存在(エンティティ)である」と明確に認識できます。
今日のSEOにおいて、Googleは個々のページに書かれたキーワードだけでなく、「その情報は”誰が”発信しているのか」というエンティティそのものを、極めて重要な評価対象としています。
GoogleはどのようにしてSEOエンティティを理解しているのでしょうか。その背景にはキーワード処理を超えたいくつかの技術が存在します。
Googleのエンティティ理解の中核を成すのが「ナレッジグラフ」です 。これは、世界中のあらゆるエンティティ(人物、場所、組織、概念など)と、それらの関係性を網羅した、極めて広大な知識データベースです。
例えば、「ロジャー・フェデラー」と検索した際に表示される経歴や戦績がまとめられた情報ボックス(ナレッジパネル)は、ナレッジグラフが良い例です。
彼の生年月日、出身地、戦績といった情報が整理されて表示されるのは、Googleが彼を「テニス選手」というエンティティとしてナレッジグラフ上で明確に認識し、関連情報を紐づけているためです。重要なのはナレッジグラフが静的なものではないという点。Googleはナレッジパネルに対するフィードバックや所有権の主張を許可しており、継続的な改良と検証のプロセスがあることを示唆しています。
詳細については、Googleのナレッジグラフの仕組みを参照してください。
ナレッジグラフを基盤として実現されるのが「セマンティック検索」です。
従来の検索エンジンがキーワードの文字列自体を照合していたのに対し、セマンティック検索は、その言葉が持つ「意味」や、ユーザーの検索「意図(インテント)」を理解しようと試みます。
自社が特定の分野の専門家(エンティティ)としてGoogleに認識されていれば、ユーザーが使用した検索キーワードがページ内に一字一句含まれていなくても、「このエンティティが発信する情報は、ユーザーの意図に合致する有益なものだ」と判断され、検索結果で優遇される可能性が高まります。
より詳しくは、Google Cloudによるセマンティック検索の説明で確認できます。
さらにGoogleは近年、「エンベディング」や「ベクトル検索」といった、より進んだ技術も活用し、SEOエンティティの理解を深めています。
テキストなどの情報を、その意味や関連性を保持したままコンピューターが処理できる「数値の集合(ベクトル)」に変換する技術です。
これを比喩的に表現するなら、あらゆる言葉や概念を巨大な地図上の特定の座標に配置するようなものです。
この数値化された地図の中から、ユーザーが入力した質問(クエリ)の座標に対し、意味的に最も「近い」座標を持つデータを探し出す検索手法を指します。
この技術的進歩により、Googleは「最強のテニス選手は誰か」といった、単一の正解が存在しない質問に対しても、様々な情報からエンティティ間の関連性や世の中の評価といった文脈を読み解き、「ノバク・ジョコビッチ」のような多くの人が納得するであろう答えを導き出すことが可能になっています。
これは検索エンジンが単純なキーワードのマッチングではなく、膨大な情報から形成される「概念」そのものを理解して回答を生成していることを意味します。
エンベディングとベクトル検索は、Googleがより人間のように文脈やニュアンスを理解し、真の専門家(エンティティ)を識別するための根幹技術と言えるでしょう。
この技術に関する詳細は、Google AIブログのエンベディングに関する記事 や Gemini APIに関する記事で解説されています。
Webサイトの検索順位を決める要素は数多く存在しますが、近年、Googleが特に重要視しているのが「SEOエンティティの確立」です。
これはGoogleが単に検索キーワードの意味を理解するだけでなく、「その情報は誰が発信しているのか」という点を、これまで以上に強く評価するようになったことを意味します。
つまり、サイトや情報の発信者自身が、「その分野で信頼できる存在(=SEOエンティティ)」としてGoogleに認識されているかどうかが、検索順位を大きく左右するようになりました。
この「信頼性」を評価する上で、Googleが用いる重要な指標が「E-E-A-T」です。E-E-A-Tは、Googleの検索品質評価ガイドライン(QRG)に由来するフレームワークです。ここで、SEOエンティティとE-E-A-Tの関係性を整理しておきましょう。
SEOの重要指標として知られるE-E-A-T(Experience: 経験, Expertise: 専門性, Authoritativeness: 権威性, Trustworthiness: 信頼性)とエンティティは、密接に関係しています。
両者の関係は、「評価基準」と「評価対象」に例えることができます。
つまり、E-E-A-Tという高度な評価基準があったとしても、評価対象であるエンティティが不明確では、Googleはその性能を十分に発揮できません。明確なエンティティを確立することは、E-E-A-T評価を受ける上での大前提と言えるのです。
このように、現在のSEOで上位表示を目指すためには、従来のキーワード対策だけでは不十分です。まずSEOエンティティとしてGoogleに認識され、その上で高いE-E-A-T評価を獲得すること、つまり信頼性を確立していくことが不可欠です。
E-E-A-Tに関するより詳しい情報は品質評価ガイドラインで確認できます。
Googleがエンティティをどのように評価しているかについては、公開されている特許や一部流出した内部文書から、ある程度の推測が可能です。特に「エンティティ指標に基づく検索結果のランク付け」というGoogle特許文書(WO2014089776A1 )では、以下の4つの評価軸が記載されています。
Googleは、これらのような多様な要素を総合的に分析し、おそらくは数値化(スコアリング)して、各SEOエンティティの信頼性や権威性を判断し、検索結果のランキングに活用していると考えられています。
詳細については、Google特許 WO2014089776A1 を参照してください。
SEOにおいてSEOエンティティが確立されていると、検索順位の安定化や上位表示の持続に効果があります。
特にGoogleのコアアップデートによる順位変動に強く、コンテンツの信頼性・専門性が評価されやすくなります。また、外部からの被リンクに頼らずとも、発信者そのものの価値が評価されるメリットが考えられます。
代表的な2つの効果をご紹介します。
Googleが年に数回実施する「コアアップデート」は、多くのサイト運営者にとって事業計画を左右しかねない大きな変動要因です。しかし、エンティティとしてGoogleに強く認識されているサイトは、この影響を最小限に抑える傾向があります 。
その理由は、エンティティ評価が短期的なアルゴリズムの調整に左右されない、中長期的な「信頼の蓄積」に基づいているからです。Googleは、ナレッジグラフに格納したエンティティ情報を基に、サイトや発信者の専門性を恒常的に評価しています。この信頼評価が確立されている場合、検索順位の基盤が安定し、アルゴリズムの変化にも耐えうる強固な状態を維持しやすくなると考えられています。
さらに、確立されたエンティティは検索結果の「ナレッジパネル」やAIによる要約(AI Overview)で引用される可能性も高まり、ブランドの認知度向上と間接的なトラフィック増加という副次的な効果も期待できます 。
従来のSEOでは、被リンクの量やドメインの運用年月に代表される「ドメインパワー」が絶対的な指標と見なされてきました。しかし現在、その序列は「専門性」と「テーマの一貫性」によって覆されるケースが増えています。
特にSEOエンティティとして認識されている場合、ドメインパワーがやや劣っていても、検索上位に表示される例が増えています。これは特定分野における権威性を意味する「トピックオーソリティ」の概念と関連しています。
例えば、ある特定の工業部品について専門的な情報を発信し続ける中小企業のサイトが、その部品に関する検索クエリで、大手ECサイトや総合情報サイトよりも高く評価されることがあります。これは、Googleがその中小企業を「この部品に関する第一人者(エンティティ)」と認識し、その専門性を高く評価しているためです。
この現象はテーマ密度が高いサイトで顕著です。たとえば、SEOについてだけを扱っている専門ブログは、総合情報サイトよりもSEO関連キーワードで上位に表示されることがあります。これはSEOエンティティの専門性とテーマの一貫性がGoogleに高く評価されているからです。
また、専門性の高い記事はユーザーからのエンゲージメント(滞在時間・クリック率・共有率)も高くなりやすいため、SEOにとっても好影響が連鎖的に生まれます。
自分や自社がGoogleにエンティティとして認識されているかどうかは、SEOにおける評価を知るうえで重要です。認識されていれば検索結果やナレッジパネル、AIによる要約などで取り上げられやすくなります。確認方法はいくつかあり、すぐにチェックできるものもあります。
もっとも手軽なのがGoogleトレンドの検索バーにキーワードを入力する方法です。たとえば人物の名前を入力して、候補に「検索キーワード」ではなく「トピック」と表示されていれば、それはGoogleにエンティティとして認識されている証拠です。
この方法は、個人名・企業名・ブランド名・商品名すべてに応用できます。特に同姓同名が多い場合、「トピック」として出ることで識別された存在になっているとわかります。
注意点として、トピックに表示されていても複数候補が出てくる場合は、Googleが一つに識別できていない可能性もあるため、より強い認知を得る施策が必要です。
Googleトレンド確認手順
「ナレッジパネル」は、Google検索で右側に表示される情報ボックスのことです。これはGoogleがその人・企業・製品などを明確なエンティティとして認識しているときにだけ表示されます。ナレッジパネルはナレッジグラフから生成されます。
ナレッジパネルには以下の要素が関係しています。
個人でナレッジパネルを出すには、まずは信頼性の高い媒体での露出を増やすことが第一歩です。たとえば、著者として他サイトで執筆した記事を持つ、受賞歴がある、書籍を出版しているなどは大きな加点になります。また、ユーザーは自分のパネルの「所有権を主張」し、変更を提案することも可能です。ナレッジパネルに関する詳細は、GoogleナレッジパネルヘルプやGoogleのナレッジグラフの仕組みで確認できます。
ナレッジパネルを出すためのポイント
エンティティは「勝手に認識されるもの」ではなく、計画的に育てていく必要があります。Googleに評価される存在になるためには、継続的な情報発信と外部からの“認知”が不可欠です。ここでは、誰でも取り組めるエンティティ構築の具体的ステップを解説します。
サイテーションとは「リンクがなくても名前が出ること」です。Googleはこれを“信頼されている証拠”としてエンティティの評価に利用していると考えられています。
場合によっては会社名や個人名が他のWebサイトやSNSで自然に言及されることで、間接的に検索順位に好影響をもたらす可能性があります。
たとえば、SEO業界で有名な人物があなたの記事や発言を引用して「〇〇さんがこう言っていた」と書くだけでも、Googleは「〇〇=SEOに関連する人物」と認識する手助けになります。これはリンクがなくても効果が期待できます。サイテーションはMEO(ローカルSEO)にとっても特に重要であり、全体的なE-E-A-Tとブランドの可視性に貢献します。特にローカルビジネスにとっては、NAP(名前、住所、電話番号)の一貫性も重要とされています。
サイテーションを得るには以下の方法などがあります
上記の通り、サイテーションを得るためには“話題にされやすい露出”が必要です。特に信頼性の高いサイトや、同ジャンルで影響力のある人からの言及は高く評価される傾向にあります。
サイテーション獲得のポイント
エンティティの評価は、自社サイト内での活動だけで完結するものではありません。Googleは、そのエンティティが外部からどのように認識され、言及されているかを多角的に分析しており、その評価においてSNSでの話題性と伝統的な被リンクは「両輪」として機能します。
近年のSEOにおいて、Googleはリンクのない言及、すなわち「サイテーション」も評価対象に含めていると考えられています。
これは、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNS上で、企業名や個人名、ブランド名が自然な形で言及されることです 。「〇〇社の新サービスは注目に値する」「この記事は〇〇氏の解説が的確だ」といった第三者による投稿は、その存在が特定の分野で認知・信頼されているシグナルとして蓄積されます。
さらに、Googleの特許情報では「暗黙のリンク(implicit links)」という概念も示唆されています。これには、ユーザーがブランド名で検索する行動(参照クエリ)などが含まれ、直接的なリンクはなくとも、そのエンティティへの関心度や人気を示す重要な指標として扱われる可能性を示しています。
一方で、従来の「被リンク(明示的なリンク)」がエンティティ評価において重要であることに変わりはありません。特に、自社の専門分野と関連性が高いサイトや、公的機関・業界団体といった権威性のあるドメインからのナチュラルリンクは、そのエンティティが専門家として外部から推薦されている強力な証拠となります。これは、Googleが「〇〇(自社)は、この分野における信頼すべき存在である」と認識する上で、直接的な後押しとなるのです。
エンティティ評価を最大化するための要点は、これらSNS上でのサイテーションと質の高い被リンクを、両輪として自然な形で増やしていくことにあります。価値ある情報発信を通じてフォロワーや顧客との信頼関係を構築し、同時に外部メディアからも評価される存在を目指すことで、エンティティというデジタル資産は着実に、そして強固に形成されていきます。
SEOエンティティ戦略は大企業だけのものではありません。むしろ、特定のテーマに特化した中小企業サイトや、顔出し・実名で情報を発信している個人こそ、GoogleにSEOエンティティとして認識されやすく、検索順位で優位に立てる大きなチャンスがあります。
ここでは、実際に成果を上げた事例を紹介します。
ある企業は専門的な領域に特化したオンラインサービスを展開していました。競合が少ない反面、検索上でも認知が弱く、流入に苦戦していました。
そこで、対象ユーザーの課題に即した専門コンテンツを発信し、発信者の実績や背景も明示。さらに、外部メディアへの掲載で企業名や担当名が言及される機会を意図的に増やしました。
結果として、検索エンジンによりエンティティとして明確に認識され、サービスに関連する検索語句での上位表示を安定して獲得。認知と信頼が高まり、SEO経由でのリード獲得も持続的に伸びるようになりました。
ある企業は、特定の目的や対象に絞った仲介サービスを展開していました。ニッチな領域ながら専門性が高く、適切な情報発信によってSEOでの優位性を築くことが可能でした。
まず、自社サイト内で専門性を伝える情報や支援実績を体系的に公開し、発信者のプロフィールを明確に設定。あわせて、地域性や市場特性に応じたコンテンツを強化し、信頼できる情報提供者としての地位を確立していきました。
その結果、特定キーワードでの上位表示が続き、問い合わせや認知度の向上につながりました。検索エンジンは企業とそのテーマの関連性を強く認識したと考えられます。専門性×一貫性の発信が、エンティティ評価の鍵となった成功例です。
今回の記事では、SEOとエンティティの関係性について以下のような内容を解説しました。
SEOはテクニックだけではなく、「誰が何を語っているのか」という“存在の信頼性”が問われる時代です。エンティティとして検索エンジンに正しく認識されることで、検索順位の安定化やアップデートへの耐性が向上します。
まずは「専門性の明示」と「一貫した情報発信」から始めて検索に強いエンティティへと育てていきましょう。
現在デジタルマーケティングにおいてお悩みがある方や、
課題を感じているがどうしていいかわからない方向けに
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まずは自社の現状を知り、可能な改善施策はどういったものがあるのか、
スケジュール、予算感はどのようなものなのか等も含めて
ご説明しますので、お気軽にご相談ください。
監修者プロフィール
木島 怜史
株式会社センタード WEBマーケティング本部 エキスパート
前職のWEB営業経験を経て、株式会社センタード入社。現在WEBマーケティング本部にて技術統括。 WEBマーケティングの全体戦略設計からWEB広告、SEO、WEBサイトの課題抽出・改善立案までを管轄。 顧客目標としてWEBの目標達成はあくまで通過点と捉え、部分最適化、全体最適化を経てビジネス改善を目指す。 Web Designing誌に「ユーザーの行動特性を捉えたイベント集客施策」「Web戦略全体の視点から広告予算を考察」など寄稿。 「WEB改善の流れがわかる!目標設定とPDCAの考え方講座」など多数のセミナー講師も務める。 ウェブ解析士、GAIQ、Google広告等各種資格保有。業界歴10年以上。
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